アジアこども科学会議報告

 10月9日から11日まで第5回アジア子供科学会議が科学技術館において行われた。参加国 はインドネシア、韓国、シンガポール、中国、タイ、フィリピン、マレーシア、ベトナム、 ブルネイ、日本の9ヶ国であった。今回はこの会期中に行われた「アジアこども科学技術研 究発表展示会」について報告する。
 この発表展示会では海外発表36、日本からの発表32が展示された。

 ←写真1

 ←写真2

 上のような展示発表の他に各国代表による実演発表が当日は行われた。今回は私が聴講 したフィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムの実演発表について簡単に紹介する。全 体的にいえることは非常に内容的にも高度なものが多く、自国が直面している環境問題を 解決するための研究内容が多かったということである。またどの発表者も英語で堂々と発 表を行っていた。アジア諸国の多くが固有の言語を持っているためここでもやはり共通語 は英語となるようである。余談ではあるが英語嫌いの私でもさすがに今回は「勉強するか」 と思った次第である。

●フィリピン

「植物抽出液を使ったキャベツの腐敗防止法」「オーディオテック・ディスペンサー」の二 点が発表された。フィリピンではキャベツの栽培が盛んであり主な輸出品になっているとの ことである。そして収穫したキャベツはそのままにして置くと温かいフィリピンではたちま ち腐敗が進行してしまうため、収穫後ミョウバン等の薬品で腐敗が進行しないように処理を 施して遠方への出荷に備えているそうだ。今回の発表はこの薬品を使った腐敗防止法に対し て自然の薬草から抽出した溶液を利用して腐敗防止が出来ないかというものである。
 薬品に比べて植物からの抽出液を使用したほうが自然にも人間にもやさしい処理ではない かというのが研究者の考えであった。実験の方法はフィリピンで民間療法で使用されている グァバの葉などから抽出した数種類の植物抽出液にキャベツを浸し腐敗の進行度をそれぞれ 比較する。結果は植物抽出液にはキャベツの腐敗の進行を抑える効果があることが実証され た。

 ← フィリピン1

 ← フィリピン2

「オーディオテック・ディスペンサー」、名前を聞いただけではさっぱりわからないと思わ れるが上の写真右側の真中に写っている箱状のものがそれである。発表者は特殊学校と呼ば れる障害を持った子供たちや特殊な技能を持った子供たちが集まっている学校の生徒だとい うことであった。そこで一緒に学んでいる障害を持った仲間の生活を便利にするための道具 を開発したかったというのが開発の動機とのことであった。
 例えるならば自動給水機といったところであろうか。音に反応してジュースが自動的に容 器に注がれ、あふれる前に停止するようにセンサーをつけたものである。手をたたくとジュ ースが流れ出しあふれる前に自動的に停止する。細かい作業が難しい人たちにとっては非常 に便利な装置である。様々な人たちの共生という観点から発明されたこの装置は非常に興味 深いものであった。
 余談ではあるが発表終了後の会場の盛大な拍手に反応して装置が作動してしまいすでにコ ップ満杯になっていたためジュースが溢れ出してしまうというハプニングもあった。

●シンガポール

 ← シンガポール1

 ← シンガポール2

「沿岸での原油流出−除去作業の科学」

 コンピューターや実験室での実験風景を動画データで取り込んだものを利用した発表を行 っていた。内容も非常に高度であっただけではなく発表方法として非常に斬新であった。内 容は沿岸に流出した原油をおがくずに吸わせそれを再び原油とおがくずに分離させ原油を再 利用するというないようであった。非常に大きなテーマを研究対象としたため研究の中間発 表であったのが非常に残念であったが今後の継続研究に期待したいと感じた。

●タイ

「風翼計」

 タイは農業国であり経済の中心も農作物の輸出に頼っているということである。そのため 農作物の豊作、不作は国民にとって重要な問題となるのである。農作物の収穫に影響を与え る様々な自然要因から以下に農作物を守るかが重要な課題であるがタイの農村の経済事情で は高価な機械を導入することは厳しいとのことであり、高価な機材を使わずにいかに自然の 猛威と闘うかというのが今回の研究の主題であった。

 ← タイ1

 ← タイ2

 身近な素材を使って風速、風向、風の強度を測定できる風翼計の作成が今回の発表であっ た。発表者はこの風翼系を風力発電に応用していきたいと今後の抱負を語っていた。

●ベトナム

「環境保護のために」

 ベトナムでは学校で廃棄物の再利用として廃棄物を使った工作と堆肥作りが行われている とのことであった。堆肥は何でもベトナムでは植林を年に一度行う習慣がありその際に利用 されるとのことである。今回は学校の中で行われている廃棄物の処理についての発表が行わ れた。

 ← ベトナム1

 ← ベトナム2

 ベトナムの学校では廃棄物は金属、プラスチックといった自然に分解しないものとそうで はないものとに分別するということである。前者以外のものを堆肥に作り変える工夫につい て発表された。方法は二種類あり地表で作る方法と、地下1mから1.5mの穴を掘りその中で 作る方法が発表された。この試みは国内の様々な地域の学校でも同様に行われているとのこ とであった。発表者の中ではおそらく最年少と思われる小学生位の女の子がしっかり説明す る姿は驚きであった。

●おわりに

 今回の展示会はアジアの子供たちが自分たちの国の環境問題について非常に関心を持って いることを実感できた。わが国のアジア諸国に対する工場進出や各国の国情にあっていない と批判されるODAなどを考えると改めてアジア諸国と日本という関係について考えざるを 得なかった。また、アジアの教育水準の高さというものを実感させられもした。
 日本では青少年の科学離れが危惧され科学の祭典をはじめとする様々なイベントが行われ ている。しかし実際に参加しているのは皆さんもご存知の通り限られた年齢層だけである。 よく、日本がアジア諸国のリーダーになるというような発言があるがもはやアジア諸国は日 本に肩を並べており、ライバルと考えるべきである。余談だが「地球文めい堂」にも外国支 部を作って外国人会員を加入させてみるのはどうであろうか。