ここでは「科学の祭典」後に行った追加実験についての分析をモーメント、運動方程式を用いて進めていきたいと思う。
今年に入ってから、車いす乗車体験でのデータ収集方法が「ラベル」による感想から「アンケート」による数値的データに変わった。特に「科学の祭典」
では坂の角度、みぞの幅などの違いが乗車した人にとってどれだけ難しいのかを単純平均によって表わした。その違いは主に、障害物を越えるのに必要とす
る力の大きさによっていると推測できる。ではその大きさについて具体的な数値を数式から導くというのが、ここのねらいである。
ただ、ここでの分析は空気抵抗などを無視した理想的な状態、理想的な車いすとして考えているので、現実とは多少の差が出てしまうことを考慮していただきたいと思う。
さて、今回の追加実験では次のようなことについて調べた。
実験方法は車いすの前方部分にばねばかりをかけ、接地面にたいして水平に 引きそのときの力の大きさを計測した。 結果は以下の通りである。
それでは、分析をしていきたいと思う。
@車いすの前輪と後輪の重量比
とすれば
力学的モーメントから重心を中心として回転しないためには
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![]() ![]() となるので ![]() という比になる。
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A静止している車いすを動かす 駆動輪である後輪について考える水平方向への運動方程式は ![]() また垂直方向は ![]() これより加速度は ![]() | ![]() | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
となるわけであるが、タイヤが地面水平方向に加える力が最大静止摩擦力よりも大きくなるとスリップするので、
![]() という条件が加えられる。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
B斜面を登るときAの場合に、重力を加える水平方向の運動方程式は ![]() 垂直方向は ![]() となるので |
![]() | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
また、スリップしないようにするには
![]() となるので、あわせて ![]() という条件のもとで前にすすむようになる。
C段差を登るとき前輪が段差を越える条件は ![]() | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ここで、駆動輪の運動方程式、
![]() を代入して ![]() という条件で登ることができる。 |
![]() | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
さて、以上の分析から必要な力を算出してみる。
とした。
ということになる。
となる。またこれ以外についても求めたので並べてみると
坂やみぞに比べて段差の力が多く必要であることが目に付くが、これはあくまで水平方向のみの力である。ここで重心を後ろにかける行為、つまり「背もたれに背中をつける」ことで、前輪にかかる負担を減らすことができるので負担はもう少し少なくなると考えられる。以上の結果とアンケート結果を見比べて欲しい。段差3cmがなぜアンケートで一番の難度を示したのがおわかりいただけるはずである。今後この結果が車いす利用者のための社会づくりに役立てていただければと思う。 |